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水戸地方裁判所 昭和29年(ワ)296号 決定

原告 高安すみ江

被告 三木政男 外一名

主文

原告の昭和四六年四月三〇日付期日指定の申立を却下する。

理由

一、本件申立は、原告訴訟代理人が昭和四六年四月三〇日付期日指定申請書をもつて「本件につき口頭弁論期日の指定を求める。」というにある。

二、よつて按ずるに、本件記録によると、昭和四六年二月一六日午前一〇時の本件口頭弁論期日(第四一回)が当事者双方の懈怠によつて徒過するに至つたため、原告は、民事訴訟法第二三八条の規定によつて本件申立をなすに至つたものであることを認めることができる。

三、そこで、右申立の適否について検討するに、本件記録によると、次の事実を認めることができる。

(一)、本件訴訟は、昭和二九年一二月二五日訴の提起によつて係属するに至つたものであるが、同三〇年三月二二日午前一〇時(第二回、以下時刻の記載についてはこれを省略する。)の口頭弁論期日において準備手続に付され、同年四月二二日の準備手続期日から同三七年一一月九日の準備手続期日まで一四回にわたる期日を経て同日終結され、次いで同三八年一月二八日(第三回)の口頭弁論期日から前示第四一回弁論期日を経て現在に至つたこと。

(二)、右準備手続の経過についてみると、原告の申請によつて期日の変更されたもの一回(昭和三二年二月一一日)、原告の申請によつて延期されたもの五回(同三〇年四月二二日、同三一年四月二七日、同年六月一二日、同年九月四日、同三六年一一月二七日、そのうち最後の期日は原告及びその訴訟代理人の不出頭によつて延期された。なお、他に、原告不出頭のため被告三木訴訟代理人の申請によつて延期された同三六年九月四日の期日の如きものもある。)であつて、実質的な手続の施行されたのは僅か七回に過ぎないこと。

(三)、次に、前示四一回にわたつて開かれた口頭弁論の経過についてみるに、前記準備手続終結後の昭和三八年一月二八日(第三回)の弁論期日から延期を重ね、右準備手続の結果は、漸く同三九年二月二七日(第一〇回)の弁論期日において陳述され、同四一年九月二〇日(第二三回)の弁論期日において原告の準備書面(同年四月二六日付)の陳述、同年一一月二九日(第二五回)の弁論期日において証人、原告本人等九名の人証の申請がなされ、同四二年六月二八日(第二九回)の弁論期日において甲第一八、第一九号証が申請されたほか原告本人を尋問し、同四三年一一月一九日(第三三回)の弁論期日に原、被告申請にかかる証人各一人を尋問し、同四四年五月一三日(第三五回)及び同年六月三〇日(第三六回)の弁論期日に原告申請にかかる証人の若干につき放棄されたこと等を含めて一三回の弁論期日(準備手続以前の弁論期日を含めて)において弁論、証拠調が施行されたのに止るが、他方この間原告の申請によつて同四一年六月二八日の弁論期日が変更されたほか、原告の不出頭若しくは申請によつて延期された弁論期日は、同三八年一月二八日(第三回)、同年三月四日(第四回)、同年四月二二日(第五回)、同年一一月五日(第八回)、同三九年一月二八日(第九回)、同年九月七日(第一二回)、同年一〇月二六日(第一三回)、同年一二月二一日(第一四回)、同四〇年九月二一日(第一八回)、同年一〇月五日(第一九回)、同年一一月九日(第二〇回)、同四一年三月一五日(第二一回)、同年一〇月二五日(第二四回)、同四三年七月三一日(第三一回)及び同四四年一月二八日(第三四回)の一五回に及び(そのうち原告ないし原告訴訟代理人が出頭しなかつたのは、第三ないし第五回、第八、第九回、第一二回、第一四回、第一八回、第二〇、第二一回、第二四回、第三四回の各弁論期日の一三回)、更に双方の弁論期日の懈怠による休止は、同三八年七月二二日(第七回)、同三九年四月三〇日(第一一回)、同四二年一〇月三日(第三〇回)、同四四年九月三〇日(第三七回)、同四五年二月一七日(第三八回)、同年七月七日(第三九回)、同年一〇月二〇日(第四〇回)、同四六年二月一六日(第四一回)の八回(他に、双方代理人の不出頭によつて延期された期日、例えば第一八回弁論期日の如きものもある。)に達していること。

四、ところで、我が民事訴訟法においては、訴訟の進行につき職権主義が採られていることはいうまでもないことであるが、これとて当事者殊に能動的立場にある原告の協力なくしては、円滑な進行を望み得ないこというまでもないところであるから、当事者のかかる非協力態度を不利益に評価されても、止むを得ないところである。本件においてこれをみるに、前示認定事実によると、本件訴訟は、昭和二九年一二月二五日の訴提起によつて係属するに至つたものであるが、その後第二回の弁論期日において準備手続に付されて第一四回の準備手続期日において終結されるまで約七年という長期間を要し、その間原告の申請による期日の変更、延期は六回を数え、更に右手続終結後の弁論期日は延期を重ねて第一〇回弁論期日において準備手続の結果が陳述され、その後第四一回の弁論期日まで何んらかの審理の行われたのは僅か九回に過ぎず、右四一回の弁論期日を通じて原告の申請、不出頭による期日の変更、延期のなされたのは一六回、休止は八回に達するというのである。

なるほど、本件訴訟は、審理の途中における訴訟代理人の辞任、委任があり、かつ、右の如き期日の変更、延期には已むを得ない事由の存した場合のあることも認め得ない訳ではないが、それにしても、この程度の事案で、訴の提起から第四一回の弁論期日に至るまで一六年余の長年月を要したとの点を説明することはできないであろう。むしろ、準備手続を経た本件訴訟が右の如き程度の審理に止つたのは、弁論期日、準備手続期日(合計五五回)のうち過半数の三〇回にわたる期日の変更(もつとも期日の変更回数は、右弁論期日等の回数に含まれていない。)、延期並びに休止が原告の都合によつて繰り返されたという事実によつても明らかなとおり、原告が訴訟進行についての協力と熱意を欠いたことにその原因を認めざるを得ないのである。殊に本件においては、八回に及ぶ休止、就中昭和四四年九月三〇日の第三七回弁論期日以降第四一回弁論期日たる同四六年二月一六日まで連続して五回にわたる休止が繰り返され、その間約一年半にわたる期間が空費されるに至つた事実に思いを致すなら、原告は、訴訟追行の意思があつたとしても極めて稀薄なものと認めざるを得ず、従つてかかる状態のもとにおいてなされた本件期日指定の申立は、その権限を乱用したものと断ぜざるを得ないのである。

五、以上の次第であるから、本件期日指定の申立を却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 長久保武)

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